企業内弁護士として働くメリット・デメリットについて解説!
公開日:2023/06/15 最終更新日:2023/04/28
組織に席を置く弁護士を「組織内弁護士(インハウスローヤー)」と呼びます。日本組織内弁護士協会が公表した統計では、2001年にはわずか66人だった組織内弁護士が、2022年には2,965人となるほど飛躍的な伸びを見せています。今回はそんな組織内弁護士のうち、企業内弁護士として働くメリットとデメリットを解説します。
企業内弁護士の主な業務内容
組織内弁護士が増えている背景として、組織内弁護士を必要とする業種が増えていることが挙げられます。
日本組織内弁護士協会によるアンケート調査の結果、2022年の企業内弁護士の勤務先の業種はメーカーが最も多く39.9%、次いで金融(銀行・証券・保険等)の19.4%、IT・通信が14.1%、その他が26.6%となっています。
同アンケートによると過去に法律事務所弁護士としての勤務経験がない人の割合も38.2%あり、企業側の弁護士ニーズの高さが窺えます。
この背景として、パワハラや不祥事、不正疑惑といった問題がマスコミで取り上げられるたびに、コンプライアンス(法令遵守)に対する社会の目が厳しくなっていったことが挙げられます。
コンプライアンス違反により利害関係者の信用を失い、司法や行政機関などから罰則や処分を受けたり、顧客や株主から賠償請求を受けたりして、企業存続が危機にさらされる可能性があります。
逆にコンプライアンスを守ることは、リスクを避けるだけでなく、内部統制力を上げることにもつながり、サービス品質や信頼面といった企業価値の向上効果も期待できます。
その結果、利害関係者を中心として社会からの評価が高まり、業績向上や資金繰り、人の雇用が優位になるというメリットがあります。
こうした企業のコンプライアンス経営強化やグローバル化の進展に伴う国際間のM&A(企業の合併買収)などによって、企業内弁護士の需要が増え、2022年では企業内弁護士を採用する国内企業数は1,372社にものぼっています。
企業内弁護士の業務内容は、事務所勤務の弁護士とは異なります。企業内弁護士の場合、企業と雇用契約を結ぶため、一社員として業務にあたることになります。
そのため、業種・配属先・ポジション別に割り当てられた業務をこなすことになり、場合によっては事務的な作業や社員教育なども担当します。
事務所勤務弁護士であれば、ひとつの案件に関して法務部分に関わることしかできませんが、企業内弁護士の場合は担当した案件の端緒からクロージングまで全ての課程に関わることになるのが特徴です。
企業内弁護士の主な仕事内容として、株式の公開・発行、株主総会・取締役会の召集と運営、子会社の設立・解散・独立、契約書の作成・審査・管理、労務交渉、内部統制、社内法律相談、債権回収、個人情報管理、M&A関連業務、不動産関連業務、官公庁の対応、特許権・意匠権など知的財産権の手続きと管理、訴訟代理人、各種調査、法律リスクの分析などが挙げられます。
企業内弁護士として働くメリット
弁護士側から見た企業内弁護士として働くメリットとして、収入の安定が挙げられます。
企業に就職した弁護士は基本給が確保され、日本組織内弁護士協会が実施した企業内弁護士を対象としたアンケート結果によると2022年の年収でもっとも多かったのは750~1,000万円未満、次いで1,000~1,250万円未満の層です。
逆に250万円未満の割合は0%で、日本弁護士連合会(日弁連)が2018年に実施した調査によると、年収が200万円未満の弁護士が72人も存在していることと比べると、安定した収入が得られるといえます。
また、1日の平均的な勤務時間が8~9時間未満、土日祝日の勤務がほとんどないと回答した人が多く、就労環境が整備されていること、休日がしっかり確保されていることによるワークライフバランスがとれていることもメリットに挙げられます。
弁護士事務所に勤務する場合だと、弁護士は「自由業」という扱いのため、勤務時間は自由です。依頼がない場合は出勤する必要がない反面、仕事を掛け持ちした状態の場合は長時間労働になりがちという側面を持っています。
日弁連のアンケート結果では週に40時間以上働いている弁護士が70%を占めていることから、企業内弁護士として働くことで、安定した生活リズムが確保できるといえるでしょう。
他にも、受け持つ仕事が法律問題だけに縛られないため、社会人としてのスキルを磨けることもメリットといえます。多様な仕事にふれることで、多くの立場に立つ人との対話機会をもつことができ、必然的に対話スキルが高まるため、弁護士価値の向上につながります。
企業内弁護士として働くデメリット
一方、企業内弁護士として働くデメリットとして収入減少リスクがあります。既に事務所勤務弁護士として高い評判・収益を上げている場合、企業内弁護士になることで年収が下がってしまうパターンです。
ただし企業の福利厚生や時間当たりの収入で評価するとデメリットとはならないこともあります。
また法律事務所への復帰や独立が困難であることもデメリットです。法律事務所と企業内弁護士では作業内容が異なることや、弁護士事務所の空きがなかなか発生しないことが原因です。そのため事務所への就職や独立のつてがない限り、企業内弁護士として仕事を続けることになります。
企業内弁護士になるためには?
企業内弁護士になるためには、企業の人材募集に応募することになります。特に競争率の高い人気企業での書類選考・面接選考では、実務経験(契約書の製作、訴訟管理等)があり即戦力となることをアピールすることが重要です。
また、コミュニケーション能力や英語スキル、管理職の場合はマネジメント能力・経験なども問われることになるでしょう。
まとめ
企業内弁護士として働くメリットとデメリットについて解説しました。企業内弁護士は法律事務所勤務の弁護士とは異なり、企業と契約を結んで一社員として働くことになります。
そのため、整備された労働環境で働けるため残業や土日出勤がなくライフワークバランスがとれていること、基本給が確保されているため収入が安定すること、多様な作業を担当するため社会的スキルを磨けるというメリットがあります。
一方、人によっては年収が下がることや、法律事務所への再就職や独立が困難というデメリットもあります。